全国夜間中学校研究大会
第55回全国夜間中学校研究大会 参加報告
2009年度
■日時:12月4日(金)、5日(土)
■場所:神戸市総合教育センター
■参加者:荒木明美、飯塚英明、泉雅人、井上大樹、工藤慶一、以上5名
■学校見学:神戸市立丸山中学校西野分校、神戸市立兵庫中学校北分校、尼崎市立成良中学校琴城分校
▲生徒体験発表
▲尼崎市立成良中学校琴城分校での交流会
全国で最初の夜間中学校が開設されたのは、今から60年前の1949年、神戸市長田区駒ヶ林中学校でした。
そのため、今大会は神戸で開催されました。そして、大会主題は
「夜間中学校設立60周年にあたり、その原点と歴史を振り返り、これからの夜間中学の課題を明らかにし、義務教育未修了者の学ぶ権利を保障しよう」と、提起されました。
その原点は、「家庭の貧困のために、あるいは運命づけられた家庭悲劇のために、何の罪もなく昼間の中学をあきらめなければならない生徒たちを救済するために、教師に残された最後の一つの手段として、当局の疑義とするところに目をおおい、しかし、神戸市教委の激励のもとに教室に灯をつけた」(1956年)と駒ヶ林中学校第2代校長は述べています。
1968年、第15回全国夜間中学校研究大会において放映された『夜間中学校をつぶさないで!』に、東京都荒川区立第九中学校夜間学級の卒業生高野雅夫さんと、神戸市立丸山中学校西野分校の生徒が出演しました。これを見て義務教育未修了者であることを名乗り出た大阪在住の青年が、数時間かけて神戸市に1校だけが残った夜間中学に通い始めます。そのことが、当時1校もなくなってしまっていた大阪市内に夜間学級が開設する一つのきっかけともなりました。
2006年、日本弁護士連合会から「義務教育は全ての人の固有の権利であり、学齢超過か否かにかかわらず、義務教育未修了者は、国に教育の場を要求する権利を持つ」との意見書が国に対し提出されました。
2008年、第54回全国夜間中学校研究大会において、「いつでもどこでもだれでも」「何歳でもどこの国籍でもどの自治体に住んでいても、基礎教育としての義務教育が保障される」ことを目指す、『すべての人に義務教育を!21世紀プラン』が採択されました。
北海道では、1990年開校の札幌遠友塾、昨年の旭川遠友塾、今年、函館遠友塾や釧路「くるかい」が開校し、およそ250名の受講生や学習者たちが自主夜間中学で学んでいます。
それらの状況に今大会では、この21世紀プランを実現する「すべての人に義務教育を!専門委員会」に自主夜間中学も含めた「拡大専門委員会」が設置、開催されました。
そして本委員会に、北九州穴生中夜間学級青春学校、北九州城南中「夜間学級」、橿原に夜間中学をつくり育てる会、札幌遠友塾および北海道に夜間中学をつくる会、釧路「くるかい」など6団体が参加し、自主夜間中学の実情の報告をおこないました。
さらに、今大会で記念講演をした神戸大学浅野慎一教授は、近畿全域の夜間中学の生徒さんにアンケート調査(18校・747名)を行い、「日本の学校教育における夜間中学の意義と役割」をつぎのように述べます。
- 夜間中学の現実は日本の学校、義務教育の「根底的なゆらぎ」の中で、義務教育を受けられなかった国民の補償(過去の清算)だけにとどまらず、新たな時代の学校、義務教育の再構築に向けた模索の一つとしてある。
日本社会の単一民族神話の崩壊がみられるなか、
- 日本の義務教育を受けていない在日外国人が多数おり、ますます増加する中で、日本語教育は日本社会への単なる適応、同化の手段ではなく、経済、社会的な問題の協同的解決、変革の手段となる。
- 人生の途中から日本に入国、定住する人々が増加する中、外国で義務教育を修了していても、学ぶ意欲のある定住者、そして日本国内での不登校から形式的な卒業者にも、実質的な学習の必要がある。
これら多様な国籍、多様な文化や言語、多元的な価値の体得者に義務教育の機会を保証するには、夜間中学がその最先端に立っている。
以上、今大会の主題に沿って、夜間中学の「原点と歴史を振り返り、これからの課題」について要旨にしました。それは大会資料や講演レジメによっていますが、そのまとめの責任はすべて筆者にあることをお断り致します。
また、今大会は金曜日と土曜日の両日に開催されました。その意義はこれまで大会初日に行われていた生活体験発表の他に、土曜日に神戸市内の夜間中学の生徒さんたちの多くが参加されたことにあります。そして、その日は生徒さんたちの学校紹介と自主夜間中学の活動報告による交流が図られました。さらに今後、大会が土曜日と日曜日に開催されることで、生徒さんたちの生活体験を通じた交流も広がるでしょう。
そうした生徒さんたちの大会への参加とそこでの交流は、「夜間中学の主役は夜間中学生だ。生命線を握っているのは教師なのだ。」ということを示すことになるでしょう。
(スタッフ 飯塚 英明)
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